ITER誘致合戦はEUに軍配:日本は有利な条件を獲得
モスクワ時間28日、日本、EU、合衆国、中国、ロシア、韓国は、核融合実験施設ITERの建設地を南仏のカダラシュ(Cadarache)に決定する旨の共同宣言を行った。ITERの建設地については、日本の六ヶ所村(青森県)とフランスのカダラシュ(ブシュ=デュ=ローヌ県)の間で誘致合戦が繰り広げられていたが、最終的にEU側に軍配が上がった。日本は、その見返りとして「特権的参加国」の地位を得ることになり、他の参加国に較べて有利な条件で研究に参加できることになった。
ITERは、「国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor)」の略語であるとともに、ラテン語で「道」を意味する(この意味での正式な発音は「イテル」)ことに因んでのネーミングであるが、公式には「国際熱核融合実験炉」の名称は既に使われていない。
核融合は、水素・ヘリウムなどの無尽蔵の資源(これらの元素は水や空気に含まれている)によって発電等のエネルギー生産を行う技術で、石油のように枯渇の心配がなく、また、CO2を排出しないので温暖化防止にもなるため、「持続可能なエネルギー源(sustainable energy resources)」の一つとして期待されている。また、現在の原子力発電(核分裂)と異なり、環境にもやさしく、また、安全性の面でも優れているとされる。
核融合は、水や空気といった無尽蔵の資源から巨大なエネルギーを生み出す、夢のような技術であるが、技術的な難関が多く、実用段階に向けてクリアしなければならない点が多い(例えば、核融合反応は摂氏1億度以上の高温で起こるが、通常の炉をこのような高温に熱すると、炉自体が溶けてしまう。したがって、真空中でプラズマを起こして熱さざるを得ないことになるが(こうすれば炉に触れない)、このプラズマ燃焼が実用可能な段階に至っていない)。今回建設されるのは、実用段階の一つ前の「原型炉」の、そのさらに一つ前の「実験炉」であり、ここで実用化に向けた実験が行われる予定である。
このようなエネルギー源は、資源貧国である日本のような国にはとりわけ魅力の高い技術である。将来的に核融合技術が実用化されれば、これまで輸入に依存していたエネルギー源について、一転して自給や輸出を行う資源大国なることができるため、国策上きわめて重要である。
そもそも、日本が第二次世界大戦への参戦に踏み切った一因には、オランダ領インドシナからの石油のストップ等、いわゆるABCD包囲陣が敷かれた結果として、日本が深刻なエネルギー不足に陥ったことがある。また、日本の満州経営も石炭の確保という側面が強かった。
このように、日本が資源貧国であることはさまざまな悲劇をもたらしたが、日本が核融合技術を手に入れることができれば、将来的にエネルギー源の心配をする必要はなくなる。
欧州でも、アルザス(エルザス)・ロレーヌ(ロートリンゲン)やザールラントといった石炭資源地をめぐって、フランスとドイツが争いあって二度の世界大戦を巻き起こした。今日のEUの原型となった欧州石炭鉄鋼共同体は、ドイツとフランスが二度と戦争を起こさないように、石炭資源の共同管理を行う組織として1950年代に出発した。このように、エネルギー源の問題と平和の問題は密接に結びついている(事実、現在でも、石油資源に関連する戦争は多い)。
したがって、核融合研究の国際協力が、1985年の米ソ首脳会談から始まっていることは興味深い(当時ソ連はペレストロイカを開始して西側に接近しており、6年後には崩壊した)。
今回の誘致合戦では、ロシアと中国がEUを支持し、合衆国と韓国が日本を支持するという構造になっていたとされるが、日本が特権的地位の獲得と引き換えに、EUに譲歩し、最終的に南仏のカダラシュに決定した。カダラシュには現在核研究センター(Centre d'Etude Nucleaire)があり、研究者など約5000人が働いている。
譲歩案は、2004年9月に日本側が起草したもので、誘致国を特定せず、「誘致国(Host)」・「非誘致国(non-Host)」という表現を用いて、日本とEUのどちらが誘致国になっても同様の条件となるようにしていた。これが、今回の共同宣言の附属書とされることになり、また、共同宣言の本文には、「ITERはフランスのカダラシュに設置される。したがって、附属書にいう「誘致国」及び「非誘致国」は、それぞれ、欧州原子力共同体及び日本である(ITER shall be sited at Cadarache, France; and so the Host and the non-Host in the attached Joint Paper will be respectively EURATOM and Japan)」との条項が盛り込まれた。なお、欧州原子力共同体(EURATOM)は、EUを構成する国際組織(「共同体」)の一つで、原子力を管轄する。今回の会議に参加したのは、正式には欧州原子力共同体である。
このため、日本は10パーセントの建設費負担で、20パーセントの受注を受けることができ、また、ITERのスタッフも20パーセントが日本人となる(これは、建設費の50パーセントを負担するEUが、本来50パーセント得られるはずのものを、10パーセント分日本に譲ったということである。建設費の総額は、欧州委員会の試算によれば45億7000万ユーロ)。また、日本からの事務総長の候補者に対してEUは支持を与えるものとされ(共同宣言により、ITERは国際組織として発足することになった)、また、本部の一部は日本にも置かれることになる。
また、日本とEUは490億円ずつ(正確には、EUは今年5月5日の相場でそれに相当するユーロ)を出資し、追加的な施設(材料研究施設(IFMIF)、研究センター、核融合発電技術調整センター、プラズマ実験装置(サテライト・トカマク))のうち、日本が選択したものを日本につくることができる。
さらに、将来建設される原型炉(DEMO)についても、日本が誘致に立候補した場合には、EU側が支持することになる。
欧州委員会が中央ヨーロッパ時間28日に発表したところによれば、核融合発電を行った場合、100グラムの重水素(deuterium)と3トンの天然リチウム(natural lithium)で、1ギガワットの核融合を一年間稼動させることができるといい、それにより70億キロワット時の電気が生産され、しかも、その際に温室効果ガスはまったく排出されないという。同じ電力量を石炭火力発電で行った場合、150万トンの石炭が必要となり、400万~500万トンのCO2が排出されるという。
また、核融合技術に使用される物質のうち、重水素、リチウム、ヘリウムは放射性物質ではなく、また、三重水素(tritium)については、放射性物質であるが、ベータ放射といって電子は数ミリ放射されるに過ぎず、紙でも遮断できるものだという。但し、人体に入ると有害であるので、三重水素の取扱いには細心の注意を払うという。
現在の原子力発電(核分裂)では、廃棄物として劣化ウラン(放射性物質で、劣化ウラン弾として兵器に転用することも可能)やプルトニウム(猛毒で、核兵器にも転用可能)のような物質が排出されるため、その処理がきわめて難しい問題となっていた。
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