ドイツ連邦議会で首相不信任が成立:解散総選挙の可否は連邦大統領の判断に
中央ヨーロッパ時間1日、ドイツ連邦議会(Bundestag)で、ゲアハルト・シュレーダー(Gerhard Schröder)連邦首相に対する信任決議が否決された。
政権与党である社会民主党(SPD)は、5月のドイツ最大の州であるノルトライン=ヴェストファーレン州(Nordrhein-Westfalen)の州議会選挙に敗北した直後、今秋に総選挙を行うべく連邦議会を解散することを決めた。しかし、ドイツの憲法である基本法(GG = Grundgesetz)の68条は、連邦首相に対する信任案が否決された場合の連邦大統領の議会解散権についてのみ規定しており、議会の自主解散を認めていない。
そこで、自主解散を可能にする憲法改正なども検討されたが、結局、SPDは、不信任に基く解散総選挙という奇策に出ることにした。このため、野党のみならず、政権与党や連邦首相自身が、連邦首相に対する信任案(連邦首相が自ら提出する)を否決するようにキャンペーンを張るという、ある意味異常な事態が起こっていた。
1日の信任投票の結果は、賛成151票、反対296票、棄権148票となり、シュレーダー首相らの目論見どおり、必要な301票(議員の過半数。「首相多数(Kanzlermehrheit)」と呼ばれる)を割り込み、信任投票は否決された。
しかし、ホルスト・ケーラー(Horst Köhler)連邦大統領が解散を行わない可能性もあり、また、大統領が解散を決定した場合にも、連邦議会議員から憲法訴訟が提起される見込みであるため(今回のような信任投票は、法的に見て憲法違反である可能性がある)、今後の行方はきわめて不透明である。
ドイツ連邦共和国基本法68条1項は、「連邦首相が、自らに対して信任を表明する動議を行い、その動議が連邦議会の議員の多数の賛成を得なかった場合には、連邦大統領は、連邦首相の提案に基き、21日以内に、連邦議会を解散することができる。但し、連邦議会が、議員の多数をもって他の連邦首相を選出した時点で、当該解散権は消滅する(Findet ein Antrag des Bundeskanzlers, ihm das Vertrauen auszusprechen, nicht die Zustimmung der Mehrheit der Mitglieder des Bundestages, so kann der Bundespräsident auf Vorschlag des Bundeskanzlers binnen einundzwanzig Tagen den Bundestag auflösen. Das Recht zur Auflösung erlischt, sobald der Bundestag mit der Mehrheit seiner Mitglieder einen anderen Bundeskanzler wählt.)」と規定している。また、2項は、「当該動議と投票の間には、48時間以上をおかなければならない(Zwischen dem Antrage und der Abstimmung müssen achtundvierzig Stunden liegen)」と規定している。
この規定を根拠として、シュレーダー首相(SPD)は、27日に、連邦議会のヴォルフガング・ティーアゼ(Wolfgang Thierse)議長(SPD)に、「基本法68条にのっとり、私は、私に対する信任を表明する動議を退出いたします。7月1日金曜日の投票の前に、これについての説明を行うつもりです(Gemäß Artikel 68 des Grundgesetzes stelle ich den Antrag, mir das Vertrauen auszusprechen. Ich beabsichtige, vor der Abstimmung am Freitag, dem 1. Juli, hierzu eine Erklärung abzugeben)」との動議を提出していた。
この動議に基き、1日午前に、連邦議会の本会議が開かれ、シュレーダー首相、キリスト教民主同盟(CDU)のメルケル党首、SPDのミュンテフェーリング党首、自由民主党(FDP)のヴェスターヴェレ党首、緑の党(Die Grünen)のフィッシャー外務大臣などの演説が行われた後に、信任投票が行われた。
CDUとキリスト教社会同盟(CSU)の統一首相候補であるメルケル党首は、シュレーダー首相の信任動議を歓迎しつつ、選挙に向けてSPDと緑の党を批判する演説を行ったが、途中、「赤緑〔SPDと緑の党の連立政権のこと〕は我が国をもはや統治することはできないし、民主社会党(PDS)も統治する資格がない。CDU・CSUがSPDと連立を組んで・・・(Rot-Grün kann unser Land nicht mehr regieren, die PDS darf unser Land nicht regieren, CDU und CSU gemensam mit SPD ...)」と言い間違い、議場の爆笑の渦に巻き込んだ(CDU・CSUは、FDPと連立を組むことになっている)。
緑の党に所属するヴェルナー・シュルツ(Werner Schulz)議員も、党の方針に反対して演説を行い、信任投票を「たわけた茶番だ(inszeniertes, absurdes Geschehen)」と言い放って、不参加を表明した。
信任投票は、賛成151票、反対296票、棄権148票で否決された。SPDでは、党の方針に反して100名程度が賛成にまわったと見られている。
連邦議会での目的を達したシュレーダー首相は、即日ケーラー連邦大統領と面会し、連邦議会の解散を提案した。
基本法68条によれば、「連邦大統領は、連邦首相の提案に基き、21日以内に、連邦議会を解散することができる」と定めているので(「解散しなければならない」ではない)、連邦大統領が連邦議会を解散しないという選択肢もありうる。しかし、すべての政党が解散総選挙を望んでいる上、国民の多くも総選挙を望んでいるとされているので、政治的には解散の方向で圧力がかかる(58条2文により連邦首相等の副署は不要とされているので、法的には一人で決めることができるが、選出母体のCDU・CSUは解散総選挙を望んでいる)。
しかしながら、同時に、連邦大統領は、国事の合憲性を担保する機関とも考えられているので、憲法に反する決定をすることは職務上許されない。事実、シュルツ議員は、ケーラー大統領が議会を解散した場合には、連邦憲法裁判所(BVerfG = Bundesverfassungsgericht)に訴えを提起することを表明している。したがって、ケーラー大統領は、今後21日間の期限で、政治と法の間の難しい決定を迫られたことになる。
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