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2005年08月15日   ドイツ情勢

ドイツ総選挙が更なる混戦:CSUシュトイバー氏が暴言、イラン派兵問題が新たな争点に、選挙無効の可能性も

大混戦の中、残り一か月余りとなったドイツの総選挙(来月18日投票予定)だが、ここに来て、さらに混戦の様相が深まる見通しとなってきた。

〔シュトイバー氏が暴言、旧東独地域での支持低下は必至〕

社会民主党(SPD)の離党組(新党WASG)と民主社会党(PDS)により結成された新党「左派政党(Die Linkspartei)」が今回の選挙の台風の目となっていることは、すでに本紙でお伝えしたとおりであるが、この状況が、キリスト教社会同盟(CSU)党首のエドムント・シュトイバー(Edmund Stoiber)バイエルン州首相の大失策を引き出すことになった。

シュトイバー党首は、4日にバーデン=ヴュルテンベルク州で演説した際に、「誰がドイツの首相になるか。これを東〔ドイツ〕が決めるなんて、私は受け入れられない(Ich akzeptiere nicht, dass der Osten bestimmt, wer in Deutschland Kanzler wird)」、「フラストレーションの溜った連中がドイツの運命を決めるなんてことがあってはならない(Es darf nicht sein, dass letztlich die Frustrierten über das Schicksal Deutschlands bestimmen)」などと発言した。

さらに、10日の演説では、彼が首相を務めるバイエルン州では新党左派政党が躍進する見込みはないが、「残念ながら、バイエルン州の住民のように頭のよい住民が、どこにでもいるというわけではない(Wir haben leider nicht überall so kluge Bevölkerungsteile wie in Bayern)」などと、自州と比較して旧東ドイツ地域のドイツ人を侮辱するような暴論を展開したとされる。

その他、5日の演説では、新党左派政党に投票する人を指して「最もバカな牛どもだけが、自分を屠殺する肉屋さんに投票するのだ(Nur die dümmsten Kälber wählen ihre Metzger selber)」と評したとの報道もある。

このことが、中央ヨーロッパ時間10日に明らかになると、同氏のの発言に旧東ドイツ地域の住民が激怒。支持率で水をあけられているSPDはチャンスとばかりに一斉にシュトイバー氏の攻撃を開始。

シュレーダー首相(SPD)は、「シュトイバーさんは、旧東ドイツの人々の生活水準を正しく理解し、それに敬意を払うということを、これまでの人生で学ばなかった、あるいは、もしかしたら、学ぶ気すらないのだ、ということがよくわかりました(Offenbar hat Herr Stoiber in seinem Leben nicht gelernt oder vielleicht lernen wollen, die Lebensleistungen der Menschen in der früheren DDR gerecht einzuordnen und sie zu achten)」と非難し、「シュトイバーの発言は〔旧西ドイツと旧東ドイツの間の〕分裂を固定しようとするもので、西〔ドイツ〕よりも困難な条件で生活を送っていかなければならなかった人々への侮辱だ(Stoibers Äußerung zementiert die Spaltung und beleidigt Menschen, die ein Leben unter schwieriegeren Bedingungen vorzuweisen haben als wir es im Westen hatten)」と述べた。

マティアス・プラツェック(Matthias Platzeck)ブランデンブルク州(旧東ドイツ地域)首相も、「無責任であり、また、反愛国的だ(verantwortungslos und unpatriotisch)」と批判した。

さらに、CSUの姉妹政党であるキリスト教民主同盟(CDU)内部からも批判が出る事態に至った(ブランデンブルク州(旧東ドイツ地域)のヨルク・シェーンボーム(Jörg Schönbohm)内務大臣兼副首相、ユルゲン・ザイデル(Jürgen Seidel)メックレンブルク=フォアポンメルン州CDU代表など)。

メルケル連邦首相候補(旧東ドイツ出身)も、シュトイバー氏の発言を電話で譴責したという。ヨシュカ・フィッシャー外務大臣(緑の党)は、「シュトイバーはあんなこと言って、自分のところの連邦首相候補のアンゲラ・メルケルと政治的に袂を分かちたいのかねぇ?(Will Stoiber mit solchen Äußerungen die eigene Kanzlerkandidatin Angela Merkel politisch zertrümmern?)」と皮肉ったという。

シュトイバー氏は、CDU・CSUが政権をとった場合には、入閣の可能性もあるとされていたが、今回の件でCDUから多大な顰蹙を買っており(実際、旧東独地域のCDUの候補者たちにとってみれば大迷惑な話である)、その可能性は低くなったといえそうだ。

さらに(シュトイバー氏にとって)悪いことに、ちょうどヴァカンス期間であるために他に主だったニュースもなく、結果として、メディアが連日このニュースを報道し、さらに騒ぎは大きくなった。このため、CDU・CSUの印象は旧東独地域を中心に悪化したと見られる。

しかし、シュトイバー氏は発言の「解釈を枉げられた(umgedeutet)」などと主張し、一向に謝罪する構えを見せておらず、かえって、新党左派政党のラフォンテーヌ氏と討論会を申し込むなどの行動に出ている(ラフォンテーヌ氏は受けて立つとしており、これは実現する見込みである)。

〔イラン派兵問題が新たな争点に〕

シュレーダー連邦首相は、イラン派兵問題を、新たな争点とすることにより、選挙戦を制したい構えを見せている。

前回(2002年)の総選挙でも、シュレーダー首相率いるSPDは、もともとCDU・CSUに対して支持率が低かったが、イラク派兵に対する「ノー(Nein)」を旗幟鮮明に繰り返すことにより、CDU・CSU対米関係重視姿勢が明らかになり、その結果として、戦争を嫌う無党派層を含む多くの有権者の支持を取り付けることに成功し、SPD・緑の党の連立政権を勝利に導いた。

今回も、政党に対する支持率ではCDU・CSUよりも低い状況からスタートしているが、シュレーダー首相は、今回はイラン派兵に対する「ノー」を旗幟鮮明に繰り返すことにより、3年前の再現を狙っているものと見られる。

世論調査の結果によれば、CDU・CSUの支持率が選挙戦の開始以後退潮傾向にあることが見て取れるが、かといって、SPDの支持率が上がっているわけでもない(新党左派政党に流れていることが原因である)。そこで、SPDが支持を増やしていくために、外交に訴えることが必要と判断した模様だ。

そもそも、CDU・CSUとSPDでは、外交姿勢に根本的な違いがある。

CDU・CSUは、(前回の選挙の際にシュトイバー候補がホワイトハウスを訪問したことからも明らかなように)親米である。このため、CDU・CSUが政権を担当している場合、合衆国から要請があれば基本的に派兵するということになる。また、欧州内では、同じく親米の連合王国と接近するものと見られており、結果として、フランスとの距離が広がる。したがって、欧州統合は(少なくとも政治的な面では)停滞する(例えば、メルケル候補は、EUがトルコに拡大することに強硬に反対している)。

一方、SPDは左派政党であり、伝統的に旧共産圏とのつながりがあるため(冷戦中もSPDが政権に就くと東独との関係が融和した)、中国やロシアとの関係を重視する。これは、外交的に合衆国とは一線を画したいフランスのゴーリスム(ドゥ・ゴール主義)外交の利害とも一致するので、結果的に、基本的に合衆国よりもフランスとの関係を重視する(したがって、欧州統合は進展する)。このため、(合衆国との友好関係は損ねるが、欧州として利益がなかった)イラク派兵にフランスとともに反対した。

イランの核問題は、今のところまだまだ派兵という段階ではないが、この問題が争点になった場合に、SPDは「絶対に派兵しない」と言い切れるのに対し、CDU・CSUは「絶対に派兵しない」と公約することはできない。

前回の選挙では、イラク派兵について、この点が決定打となって(一騎打ち討論会で大きく取り上げられた)、シュレーダー首相がシュトイバー候補を打ち負かしたという経緯がある(コソヴォ派兵やアフガニスタン派兵と異なり、イラク派兵は国際法に反するという印象があったため、ドイツでは評判が悪く、派兵に反対する人が多かった)。

シュレーダー首相は、イランの原爆製造を妨げるのに軍事行動を起こすかという点について、「軍事的な選択肢は高度に危険だと考えている(Ich halte eine militärische Option für hochgradig gefährlich)」と述べたほか、「友好的に自分の意見を言う代わりに、言いなりになるようなことを、私は望んでいない(Ich will nicht, dass an die Stelle freundschaftlichen Selbstbewusstseins wieder neue Willfährigkeit tritt)」とし、CDU・CSUの対米追従を非難した。

また、フィッシャー外務大臣も、イラン派兵の可能性を否定した。

これに対し、CDU・CSUや自由民主党(FDP)は、このテーマが選挙戦の主要テーマにならないことを望んでおり、FDPのヴェスターヴェレ党首は、「連邦首相は個人的にアメリカの大統領とお話すればいいのであって、選挙のデモンストレーションとしてアメリカの大統領について話すのはやめていただきたいものだ(Ich erwarte vom deutschen Bundeskanzler, dass er mit dem amerikanischen Präsidenten persönlich redet und nicht über ihn auf Wahlkampfkundgebungen)」と述べた。

〔選挙無効の可能性も〕

そもそも解散総選挙が合憲であるか否かの連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht)の判断もまだ出ていない段階であるが、仮に合憲だとしても、選挙後に無効となる可能性が出てきた。

ドイツの選挙には「5パーセント条項」なるものがあり、5パーセント以下の得票しかなかった政党は、比例選挙から除外され、比例名簿から当選者を出すことができないことになっている(小選挙区から当選した場合は別)。これは、旧ヴァイマル共和政において、小党が乱立したために統治活動が不可能になり、結果としてナチスの擡頭を許すことになったという歴史の教訓に由来している。

左派政党(PDSから改称)と新党WASGは事実上一つの政党として活動しているが、これを法的に1つの政党と見るか、2つの政党と見るかにより、法的な結論が違ってくる。もし法的に2つの政党と見られる場合には、5パーセント条項の潜脱手段となり、違法な選挙であるとして無効になる可能性がある。

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