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2005年11月14日   EU域内市場

欧州司法裁判所論告官:ドイツの配当課税法制は欧州共同体法違反と提案、50億ユーロの欠損は判決効の期間限定で防止へ

欧州司法裁判所(EuGH)のアントニオ・ティッツァーノ論告官(Generalanwalt Antonio Tizzano)は、中央ヨーロッパ時間10日、「ドイツの法人の配当を、他の加盟国の法人の配当に較べて税制上優遇するドイツの所得税法は、資本の自由移動を規定する欧州共同体法に違反する」とする判決を裁判所に提案した。

論告官(Generalanwalt)は、欧州司法裁判所において、独立の立場から裁判所に対して判決を提案する官職である。日本の裁判所には相当する制度がないため、訳語が複数存在しており、「法務官」と訳されたりもするが、フランス法に溯るその沿革に鑑み、本紙では「論告官」と訳すことにする(参考:伊藤洋一「EC判例における無効宣言判決効の制限について(1)」(法学協会雑誌111巻2号161頁以下)206-208頁。但し、伊藤教授の提案する「論告担当官」に、「法務官」の長所(「裁判官」との対等性を感じさせる語感)を掛け合わせて、本紙では独自に「論告官」という訳語を採用することにした)。

もっとも、論告官の論告(判決提案)は、裁判所により相当程度尊重されるものの、法的には裁判所に対する拘束力はなく、裁判所が最終的にどのような判決を下すかは未定である。

論告官の論告(Schlussanträge)によれば、事案(事件番号2004年C-292号)の概要は次の通り:

ドイツ人ハインツ・マイリッケ(Heinz Meilicke)は、1995年から1997年にかけて、オランダ法人及びデンマーク法人から配当を受け取り、その後死去した。2000年に、マイリッケ氏の相続人は、ボンの税務署に、配当課税の還付を申請した。

当時のドイツ所得税法(EStG)によれば、納税義務者は、内国の法人(つまりドイツ法人)から得た配当の7分の3を、税額から控除することができる(予め納付した資本収益税(Kapitalertragsteuer)から還付される)とする規定があった。これは、企業の収益に対する、法人税と所得税の二重課税の負担を軽減する趣旨であるとされる(なお、現在は「半収入手続(Halbeinkünfteverfahren)」が導入され、配当の半分が所得税の課税対象となっている)。

これに対し、外国の法人から得た配当については、同様の控除を受けることができる旨の規定は存在しなかった。

このため、ボンの税務署は、マイリッケ氏の相続人の還付申請を拒否した。そこで、マイリッケ氏の相続人は、ケルン財務裁判所に訴えた。ケルン財務裁判所は、事案が欧州共同体法の解釈に関わるため、欧州司法裁判所に伺いを立てることにした(これを「先決手続(Vorabentscheidungsverfahren)」という)。これが、この事件である。

ティッツァーノ論告官は、当該ドイツ所得税法の規定は、結局のところ、外国法人がドイツで資本を集めることを難しくする効果をもつから、資本の自由移動を保障する欧州共同体条約の規定に違反すると論じた。

〔判決の効力の時間的な限定を提案〕

しかしながら、仮にこの論告に基いて判決が出され、その判決に基いてドイツの租税実務をやり直すとすると、ドイツの国家財政から約50億ユーロの欠損が出ることになる。そこで、ティッツァーノ論告官は、判決の効力を時間的に限定することを提案した。

すなわち、この判決の効力を、共同体条約の保障する資本の移動の自由と租税の関係が明らかになったフェルコーエイエン(Verkooijen)判決が出された2000年6月6日から、本件(マイリッケ氏の事件)が先決手続に付されたことが欧州連合官報(Amtsblatt)で公示された2004年9月11日の間に限定し、それ以前の法律関係とそれ以後の還付申請には適用されないとすることによって、ドイツの国家財政に生じる欠損を大幅に限定しようということである。

もし、この通りに判決が出された場合には、マイリッケ氏の相続人の訴えは、棄却されることになる。

しかしながら、前述の通り、論告官の論告は裁判所を法的に拘束しないから、欧州司法裁判所がこの論告通りに判決を出すとは限らない。判決の行方が注目される。

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