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2005年11月22日   ドイツ情勢

ドイツで初の女性首相:アンゲラ・メルケルCDU党首が首相就任、大連立の内閣成立、付加価値税は19パーセントに引き上げ

中央ヨーロッパ時間22日午前10時から開催されたドイツの連邦議会(Bundestag)の本会議において、アンゲラ・メルケルCDU党首が、賛成397票、反対202票、棄権12票の賛成多数で、連邦首相(Bundeskanzlerin)に選出された。

メルケル党首は、ノルベルト・ランメルト連邦議会議長(CDU)から選挙結果を受諾するかを問われ、選挙結果を受諾すると回答して大統領府に赴き、ホルスト・ケーラー連邦大統領から連邦首相に任命された。これにより、ドイツ史における最初の「カンツラリン(Kanzlerin)」が誕生した。メルケル首相は、連邦議会に戻って宣誓を行った。

〔史上初のカンツラリン〕

歴史的に見ると、ドイツ語圏においては男性優位の思想が強く、例えば、メロヴィング王朝で成立したサリカ法典においては女性相続が否定されていたし、神聖ローマ帝国でも女性は帝位に就けず、また、マリア・テレジア(女性)がハプスブルク家(オーストリア)を相続したために、プロイセン・ザクセン・バイエルンがその相続権を否定して攻め込んだりした(オーストリア継承戦争)。ドイツ帝国の成立後も、女帝は一人もいなかった。

このような背景から、ドイツ帝国・ヴァイマル共和国・第三ライヒ(ナチス支配下)のライヒ首相(Reichskanzler)については、就任した女性は一人もいなかったし、戦後のドイツ連邦共和国(BRD = Bundesrepublik Deutschland)の連邦首相(Bundeskanzler)についても、これまで、就任した女性は一人もいなかった。メルケル女史が初めての「カンツラリン(Kanzlerin)」(カンツラーの女性形)であるとは、そのような意味においてである。

また、同じく神聖ローマ帝国の流れを汲み、歴史的には「ドイツ」(ドイツ語とドイツ的習俗を共有する人々の総称であり、かつては、プロイセン、バイエルン、ザクセン、オーストリアなどの領邦国家の上位概念として機能した)の一部であった隣国オーストリアでも、「カンツラリン」は存在したことがなく(これまですべて男性)、この意味でも、史上初の「カンツラリン」となる。

つまり、歴史的に男性優位の思想が強かったドイツ語圏において、国政を総理する「カンツラリン」が登場したことは、画期的なことであるといえる。

なお、ドイツ統一後初めての旧東独出身の連邦首相(出生地はハンブルクだが、父の仕事(聖職)の関係で東独に引越し、旧東独社会主義独裁政権崩壊まで東独にいた)であり、その意味でも画期的である。

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〔大連立の内閣成立〕

このメルケル首相の基盤を形成する与党は、ドイツの二大会派を形成する三政党、キリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)・社会民主党(SPD)である(CDUとCSUが会派を形成している)。

ドイツにおいては、複数の政党が連立政権を形成する際には、必ず詳細な「連立協定(Koalitionsvertrag)」(要するに契約(Vertrag))が締結される。今回、総選挙が終了してから首相が選出されるまでに2か月以上の時間がかかったのは、この連立協定の文言を政党間で調整するのに時間がかかったからである。

もともと総選挙では敵同士として戦ったCDU・CSUとSPDであるため、政策の懸隔は大きかったが、数合わせの点から他に現実的な選択肢がなかったため、大連立の形成に向けて両サイドとも妥協を行った。その結果、両サイドの増税案がともに採用されるなど、有権者にとっては双方の「悪いところ」を組み合わせたようなものとなったが、EUの安定協定(Stablitätspakt)を侵害している同国の苦しい財政にとっては、結果的に都合が良かったようだ。

具体的には、一方で、付加価値税(Mehrwertsteuer。日本の消費税に相当する)が、CDU・CSUの主張を反映して、2007年に、現行の16パーセントから19パーセントに引き上げられる(もっとも、CDU・CSUは18パーセントへの引き上げを主張していたはずであり、いつの間にか1パーセント上乗せされている)。但し、食料品・近郊運賃・書籍・馬・切花などに適用されている優遇税率は、7パーセントに据え置かれる。

他方で、俗に富裕税(Reichensteuer)と呼ばれる富裕層に対する所得税の引き上げも、SPDの主張を反映して、2007年から実行される。これにより、所得税の最高税率は45パーセントとなる。

なお、CDU・CSUとSPDの方向性の違いから政権運営の困難を心配する声も聞かれるが、基本的には、附属文書も含めて200ページ近くに及ぶ連立協定を粛々と実行していくだけの話であるから、支障なく案件の処理は進んでいくものと見られる(もっとも、健康保険改革など、解決を先送りした問題もある)。むしろ、連邦レヴェルでの大連立の成立により連邦理事会(Bundesrat、連邦参議院。各州政府の代表者から構成される合議体)の運営が容易になったといえるので、従来よりもスピーディに処理が進む可能性すらある。

〔新内閣の顔ぶれ〕

アンゲラ・メルケル新連邦首相は、基本法64条に基き連邦大臣を連邦大統領に提案し(つまり組閣)、新大臣は連邦大統領により任命された。この際、連邦大統領の権限は形式的なものであり、実質的には連邦首相が決定することになっているが、この人事については、与党間の交渉によって既に決定されており(連立協定にも、大臣ポストの割り当て方が明記されている)、実際のところはそれを確認したに過ぎない。

新内閣は、22日夕、早速初閣議を行なった。

新内閣の顔ぶれは、次の通り:

  • 連邦首相(Bundeskanzlerin):アンゲラ・メルケル博士(Dr. Angela Merkel)/CDU/女性
  • 副首相(Vizekanzler)・連邦労働社会大臣(Bundesminister für Arbeit und Soziales):フランツ・ミュンテフェーリング(Franz Müntefering)/SPD/男性
  • 連邦首相官房長官(Chef im Bundeskanzleramt):トーマス・ドゥ・メジエール博士(Dr. Thomas de Maizière)/CDU/男性
  • 連邦外務大臣(Bundesminister des Auswärtigen):フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー博士(Dr. Frank-Walter Steinmeier)/SPD/男性
  • 連邦内務大臣(Bundesminister des Innern):ヴォルフガング・ショイブレ博士(Dr. Wolfgang Schäuble)/CDU/男性
  • 連邦法務大臣(Bundesjustizministerin):ブリギッテ・ツュプリース(Brigitte Zypries)/SPD/女性
  • 連邦衛生大臣(Bundesgesundheitsministerin):ウラ・シュミット(Ulla Schmidt)/SPD/女性
  • 連邦協力開発大臣(Bundesministerin für wirtschaftliche Zusammenarbeit und Entwicklung):ハイデマリー・ヴィーツォレック=ツォイル(Heidemarie Wieczorek-Zeul)/SPD/女性
  • 連邦財務大臣(Bundesfinanzminster):ペール・シュタインブリュック(Peer Steinbrück)/SPD/男性
  • 連邦経済・科学技術大臣(Bundesminister für Wirtschaft und Technologie):ミヒャエル・グロース(Michael Glos)/CSU/男性
  • 連邦消費者保護・食糧・農業大臣(Bundesminister für Verbraucherschutz, Ernährung und Landwirtschaft):ホルスト・ゼーホーファー(Horst Seehofer)/CSU/男性
  • 連邦防衛大臣(Bundesminister der Verteidigung):フランツ・ヨーゼフ・ユング博士(Dr. Franz Josef Jung)/CDU/男性
  • 連邦家族・老人・女性・青年大臣(Bundesministerin für Familie, Senioren, Frauen und Jugend):ウルズラ・フォン・デア・ライエン博士(Dr. Ursula von der Leyen)/CDU/女性
  • 連邦教育・研究大臣(Bundesministerin für Bildung und Forschung):アネッテ・シャヴァーン博士(Dr. Annette Schavan)/CDU/女性
  • 連邦交通・建設・都市開発大臣(Bundesminister für Verkehr, Bau- und Stadtentwicklung):ヴォルフガング・ティーフェンゼー(Wolfgang Tiefensee)/SPD/男性
  • 連邦環境・自然保護・原子炉安全大臣(Bundesminister für Umwelt, Naturschutz und Reaktorsicherheit):ジークマル・ガブリエル(Sigmar Gabriel)/SPD/男性

〔外交の方向性〕

連立協定の第九章は外交に当てられており、これによりメルケル大連立政権の外交の方向性を知ることができる。以下、それを見ていこう。

まず、外交の目的として規定されているのは、次の4つである:

  • グローバル化のチャンスを国益とすること
  • 紛争の防止と解決への貢献
  • 国際テロリズムに対する戦い
  • 貧困を少なくすること

要するに、平和と安全を基調とする世界経済において、第三世界に配慮しつつ経済的利益を追求するということであり、基本路線は現在の世界的な潮流やEUの方向性から特に外れていないことが確認できる(これは必ずしも当たり前のことではない)。

親米・親英を基調とするCDU・CSUと、親欧(親仏)・親露を基調とするSPDの連立政権であることを反映して、「欧州統合と大西洋パートナーシップ〔独米関係〕は背反するものではなく、我が国の外交政策の二本の最も重要な柱である。この二本の柱は、我が国の関係、とりわけ、フランス、ポーランド及び他の近隣諸国、アメリカ合衆国との友好と協力、それから、ロシアとの関係の基盤を構成する。同時に、イスラエルに対する我が国の特別な責任〔暗にホロコーストを指している〕を認める(Europäische Einigung und atlantische Partnerschaft sind keine Gegensätze, sondern die beiden wichtigsten Pfeiler unserer Außenpolitik. Beide bilden die Grundlage für unsere Beziehungen, insbesondere für die enge Freundschaft und Zusammenarbeit mit Frankreich, mit Polen und unseren anderen Nachbarn, mit den Vereinigten Staaten von Amerika wie auch für unser Verhältnis zu Russland. Zugleich bekennen wir uns zu der besonderen Verantwortung Deutschlands gegenüber Israel)」としている。要するに米英、欧州(特にフランス)、ロシアの三方に配慮した外交であるが、このような外交方針が矛盾をきたすことなく機能するかどうかは、注意深く見守る必要がある。もっとも、言及の順序や言い回しの違いから、EUと合衆国に較べれば、ロシアとの関係は優先順位が低いことが分かる。また、欧州統合の利益に背反しない限りは、合衆国との友好関係は最大限配慮されるだろう。

アジアについては、「我が国は、アジアの政治的・安全保障政策的・経済的な問題に取り組む。この枠組において、既に確固たるものとなった日本その他のアジア諸国との関係のほか、とりわけ中国及びインドと長期的なパートナー戦略を発展させたい。これらの国々〔中国とインド〕は、経済的なポテンシャルのみならず政治的なポテンシャルも増大してきており、その機会を我が国の国益としたいと考える。我が国は、〔中国での〕民主政・法治国家性・人権を強化する目的をもって、中国との法治国家対話(Rechtsstaatsdialog)を行いたい(Wir werden uns verstärkt den politischen, sicherheitspolitischen und wirtschaftlichen Herausforderungen Asiens widmen. In diesem Rahmen wollen wir neben unseren bereits etablierten Beziehungen mit Japan und anderen asiatischen Staaten eine langfristige partnerschaftliche Strategie vor allem mit China und Indien entwickeln. Diese Länder verfügen über ein wachsendes wirtschaftliches wie auch politisches Potential, dessen Chancen wir nutzen möchten. Unseren Rechtstaatsdialog mit China wollen wir mit dem Ziel intensivieren, Demokratie, Rechtsstaatlichkeit und Menschenrechte zu stärken)」としている。

つまり、日本との関係については現状維持を、中国・インドとの関係については強化を目標とし、中国については、手放しで強化するわけではなく、人権状況の改善をきっちり要求しつつ経済的・政治的関係を強めていくということである。中国との関係強化はSPD側が推進してきたものであるが、日本への言及や中国の人権状況への言及により枠を嵌め、CDU・CSU側とのバランスをとっている。

もっとも、これらの国々に関する優先順位は読み取れず、これらの国々の間に軋轢が生じた場合にドイツがどう行動するかはここからは読み取れない。

EU拡大については、新しく加盟交渉国となったトルコとクロアティアの扱いの違いが注目に値する。すなわち、クロアティアについては「クロアティアとの加盟交渉が開始したことを我が国は歓迎する(Wir begrüßen, dass Beitrittsverhandlungen mit Kroatien aufgenommen worden sind)」と歓迎の意を明確にしたのに対して、トルコについては、「我が国は、トルコとの相互関係を深めることと、トルコをEUに繋属させることに、特別の関心を抱いている(Deutschland hat ein besonderes Interesse an einer Vertiefung der gegenseitigen Beziehungen zur Türkei und an einer Anbindung des Landes an die Europäische Union)」という慎重な言い回しが用いられた。

これは、SPDがトルコのEU加盟に賛成していたのに対し、メルケル首相が予てからトルコのEU加盟に反対し、「特権的パートナーシップ」に留めるべきだ主張していたことを反映している。もっとも、連立協定では「特権的パートナーシップ」について明言することも避けられ、トルコの加盟に賛成も反対もしない立場となっている。

いずれにせよ、トルコの加盟が実現するのは10年以上先の話であり、既に加盟交渉が開始した以上、現時点で加盟の可否を云為することは、余り意味がない。

EU加盟の際の現加盟国側の「受容力(Aufnahmefähigkeit)」については言及され、その関連で、ルーマニアとブルガリアの加盟時期については慎重に判断すべきであるとの結論を導いていることは注目に値する。

両国は、2007年に加盟予定であるが、状況によっては2008年に延期される可能性もある。

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