2006年01月01日 EUエネルギー
烏露ガス紛争:ロシアがウクライナへの天然ガス供給を停止
© European Community, 2005
ロシアのガスプロム社の発表したところによれば、モスクワ時間元日10時(中央ヨーロッパ時間8時)をもって、ロシアのウクライナ向け天然ガスパイプラインを停止した。ウクライナのナフトガス社は、パイプラインの圧力低下を確認した。
これまで、ウクライナはロシアから1000立方メートル当り50ドルの格安価格で天然ガスを購入してきたが、ロシア側が4.6倍の230ドルへの値上げを主張した。このため、烏露間の交渉が暗礁に乗り上げた。
大晦日には、ロシアのヴラディミール・プーティン大統領が値上げを4月からとする妥協案を提示したが、ウクライナのヴィクトル・ユシチェンコ大統領は拒否。ロシア側は最後通牒を拒否されたと解釈し、元日10時からガス供給を停止した。
そもそも、ロシアがウクライナに対して天然ガスを格安で提供してきたのは、ウクライナがロシアの衛星国だったからである。烏露間の天然ガス価格の協定は、旧ソ連時代に遡るものとされる。
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しかし、オレンジ革命によりウクライナは民主化し、欧米に接近してEU加盟を目指すこととし、ロシアの衛星国を離脱した。このため、ロシアはウクライナにもはや便宜を供与する必要はないと判断したものと見られる。
現に、引き続きロシアの衛星国に留まっているベラルーシに対しては、引き続き格安価格で提供されている。
2006年にはウクライナの議会選挙が予定されており、ロシアは、ユシチェンコら親欧米派に対して揺さぶりをかけ、親露派の勢力拡大を狙っているものと見られる。
ウクライナを通るパイプラインは5本あるが、そのうち3本はEU諸国向けとなっている。このこともあり、EU内の関係諸国のエネルギー関係大臣は大晦日にロシアに書簡を送り、天然ガス供給を停止しないように要求していた。
ウクライナは、さしあたりトルクメニスタンからの輸入や自国産出分などで急場を凌ぐとしているが、ロシア側の態度が軟化した場合には引き続き契約を行いたい意欲を見せている。
〔シュレーダー前首相の立場が微妙に変化〕
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昨年9月8日に、ドイツ・ロシア間のガスパイプライン敷設契約が、ドイツのシュレーダー首相(当時)、ロシアのプーティン大統領の臨席の下、ガスプロム社と、ドイツのBASF社、同じくドイツのE.ON社の間で締結された。
各社の保有率は、ガスプロム社が51パーセント、BASF社が24.5パーセント、E.ON社が24.5パーセントとなっている。なお、E.ON社の子会社であるルールガス社(Ruhrgas)は、ガスプロム社の株式を6.5パーセント保有している。
ところで、ドイツのゲアハルト・シュレーダー前首相は、首相職を退いた後、ガスプロム社の監査役会(Aufsichtsrat)の長に就任した。
このため、シュレーダー前首相は、在任中ドイツ・ロシア間のガスパイプラインの契約を手がけた経緯を槍玉に挙げられ、公私混同の天下りであるなどとして野党から批判を受けていた。
ところが、今回の問題が生じてからは、ガスプロム社の監査役をつとめ、プーティン大統領とも親しいシュレーダー前首相に、ガスプロム社側からの問題の善処と、ウクライナ・ロシア間の仲介を依頼すべきであるという意見が、与党のみならず野党からも出てきている。
このような背景から、シュレーダー前首相のガスプロム社監査役就任は、単なる公私混同ではなかったことが認識されはじめており、同氏のイメージも微妙に好転している。