2006年02月12日 EU競争
ルクセンブルクのタックス・ヘイヴン法:欧州委員会はEU法違反と主張
© European Community, 2006
欧州委員会は、ルクセンブルクのいわゆる「1929年法」がEU競争法に違反すると主張して、審査を開始した。自国をEU内のタックス・ヘイヴンにすることにより収益を得ているルクセンブルクは、反発している。
「1929年法」に基いた法人形態であるいわゆる「1929年ホールディング(持株会社)」の事業は、コンツェルンの管理・調整、ライセンスの附与、資金調達などに限られる。その代り、ルクセンブルクは「1929年ホールディング」に対して法人税を免除する。配当・利子・ライセンス料などに関しても、課税が免除されている。
このため、ルクセンブルクにはコンツェルンのホールディングや銀行・投資ファンドなどがヨーロッパ中から集中しており(金融機関だけで220社程度といわれる)、金融機関からの税収だけで国家歳入の5分の1を占めるとのデータもある。
ルクセンブルクは、ドイツ・フランス・ベルギーの三国に囲まれた小国で(面積2586平方キロメートル。神奈川県より若干大きい程度)、炭鉱業の衰頽した今、このようなタックス・ヘイヴン政策によって成り立っているところが大きい。現在のところ、この政策は奏功しており、「国民が世界一豊かな国」として知られる(国民一人当りの購買力平価換算GDPが58900米ドルで、世界一である。2位の合衆国は40100米ドルに過ぎない)。
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それだけに、ルクセンブルクとしては、欧州委員会の要求を呑むわけにはいかない。欧州委員会は、EUの競争法に適合するかに関して、3年間の事前調査を行い、昨年10月21日に漸次的に1929年法を改正していく妥協策をルクセンブルク側に提案したが、ルクセンブルクはこの提案を拒絶した。このため、欧州委員会は、正式な手続を開始した。
なお、金融のほかに、ガソリンに関しても優遇政策をとっており、近隣諸国からガソリンを入れに来る人々も多い。
EUの競争法によれば、国家の補助金は域内の企業間の競争を歪めることになるため、原則として禁止されている(欧州共同体条約87条)。免税措置に関しても、結局のところ、支払うべきものを支払わずに済むことになるため、補助金と同じ効果をもつとされている。
欧州委員会によれば、今後、欧州共同体条約88条に基く手続を進めていくことになるが、利害関係者には聴聞の機会が与えられるといい、多くの関係企業がさまざまな手を尽してくるものと見られる。
また、欧州共同体条約88条によれば、さしあたり手続は欧州委員会の決定に委ねられることになるが、その後、欧州司法裁判所の訴訟手続に持ち込むことも可能であるほか、理事会の全会一致決議で当該補助金が合法である旨を決議するという政治的解決の方法も残されている。ルクセンブルク側は、このような手段に訴えてくる可能性が高い。