2005年11月06日 EU経済・金融・通貨

ユーロ圏の東方拡大:各国の準備の遅れを指摘/欧州委員会報告書

欧州委員会は、中央ヨーロッパ時間4日、2004年にEUに加盟した新規加盟国10か国(バルト3国:エストニア・ラトヴィア・リトアニア、中欧諸国5か国:ポーランド・チェコ・スロヴァキア・スロヴェニア・ハンガリー、地中海島嶼国2か国:マルタ・キプロス)へのユーロ導入について、報告書を公表した。

〔新規加盟国のユーロ導入の概況〕

欧州共同体条約121条によれば、ユーロを導入するためには、導入国がいわゆる「マーストリヒト収斂基準(Maastrichter Konvergenzkriterien)」をみたす必要がある。このマーストリヒト収斂基準は、次の4つのマクロ経済基準である:

  1. 健全な国家・地方財政(gesunde öffentliche Finanzen)
  2. 価格安定性(Preisstabilität)、特に、インフレ率が低いこと
  3. 欧州通貨システム内での2年以上の為替相場安定性(Wechselkursstablität)
  4. 長期金利水準(Langfristzinsniveau)の持続性

現在、新規加盟国は、ユーロの導入を目標として準備を行なっており、各国の具体的な目標は、次の通りとなっている(ちなみに、1月1日が導入日に指定されているのは、ヨーロッパでは会計年度を暦年と一致させる(つまり、1月1日から12月31日が会計年度となる)ことが一般化しているためである):

  • 2007年1月1日予定:エストニア、リトアニア、スロヴェニア
  • 2008年1月1日予定:キプロス、ラトヴィア、マルタ
  • 2009年1月1日予定:スロヴァキア
  • 2010年1月1日予定:チェコ、ハンガリー
  • 未定:ポーランド

この日程で2010年まで予定通りにユーロ導入が行なわれれば、ユーロ圏の人口は、現在の3億900万人から3億4500万人にまで増加する。

〔報告書の内容〕

今回の報告書は、ユーロ導入の可否を決するマーストリヒト収斂基準に関するものではなく(これは、来年作成される)、導入が予定通り実行された場合の現実的な問題に対処する準備が整っているかどうか、という点に関わるものである。

例えば、ユーロ硬貨のデザインは済んでいるか、ユーロ硬貨の鋳造はどうか、導入に際しての計画は策定してあるか、必要な法制度の整備は行ったかといった点に関わる。

現在のユーロ圏12か国は、いわゆる「マドリッド方式」を採用し、決済通貨として(ギリシャは1年間)ユーロを導入して3年間様子を見てから、2002年にユーロ現金を導入したが(つまり、その3年間は、帳簿上国際決済に使用する通貨のみがユーロで、実際に市中で受け渡しする現金は各国通貨だったということである)、新規加盟国は、基本的には決済通貨と支払手段(現金)を同時に導入することになるため(これを「ビッグ・バン方式」という)、きわめて周到な準備が必要となる。

報告書では、概ね準備が遅れがちとなっているとして、具体的には次の諸点を指摘している:

  • 2009年までの導入を予定している7か国は、ユーロ導入を管轄する当局を設置した スロヴェニア、エストニア、リトアニアは、すでに導入計画を策定したが、準備の速度を速める必要がある
  • キプロス、ラトヴィア、マルタは、導入計画を策定しておらず、不安材料となっている
  • スロヴァキアは、すでに導入計画を策定しており、満足できる
  • チェコ、ハンガリー、ポーランドでは、まだ準備を始めたばかりの段階である
  • スウェーデンでは、2003年9月14日の国民投票でユーロ導入が否決されたため、準備が打ち切られている
  • 策定されている導入計画は、ユーロ現金の導入には多くの注意を払っているものの、帳簿上の通貨変換には注意が余り及んでいない
  • 導入方式はビッグ・バン方式とし、旧通貨と新通貨の両方が流通する期間は短くする(7日(スロヴェニア)~1か月(ハンガリー、キプロス))のが主流である
  • 市民の75パーセントが便乗値上げを心配している
  • すでに導入計画を策定した国々は、いずれも旧通貨と新通貨による価格併記を義務付けている(これにより、便乗値上げが防止される)が、その期間はまちまちである(リトアニア4か月、エストニア12か月、スロヴェニア16か月など)
  • エストニアとスロヴァキアは、公共機関が便乗値上げを監視する
  • エストニア、リトアニア、スロヴェニアでは、ユーロのデザインが決定した
  • チェコ、リトアニア、ハンガリー、ポーランド、スロヴァキアは自国でユーロ硬貨を鋳造し、その他の国は、他の国に注文して鋳造を委託する
  • 市民への周知のためのキャンペーンが不可欠である
  • エストニア、リトアニア、スロヴェニアでは、すでにキャンペーン戦略を策定した。それによれば、今年中にキャンペーンは始まり、2007年6月まで続く

報告書は、こちらからダウンロードできる。エストニア、リトアニア、スロヴェニアのユーロ硬貨のデザインが見られるほか、全ユーロ圏諸国共通で導入されるユーロ硬貨の新デザイン(現在のユーロ圏諸国だけでなく、ヨーロッパ大陸全体が描かれている)も見ることができる。